AKIRA YAMADA
(株)アルファ、(株)計画機構代表。国内外で、住宅・施設の建築設計から都市計画まで広く携わる建築家。コンサバトリーを日本に紹介した第一人者。
現在、英国アムデガ社の総輸入代理店、BDG社の代理店。自身も近郊に
コンサバトリー実験用のアトリエを計画中。
―――山田さんはコンサバトリーを日本に最初に紹介された方ですよね。国内でも認知されはじめ、最近では、庭に欲しい人気アイテムともなっていますが、よくある「サンルーム」とは
どのように違うものなんですか?

AKIRA YAMADA(以下AY): よく誤解されるところです。コンサバトリーの一番の特徴はれっきとした居住空間であること。サンルームのような目的で使われることはあっても、基本的な構造が全く違います。通常、欧米のコンサバトリーはペアグラスという二重ガラスでできていて、エアコンなどの空調システムも完備されているものがほとんど。断熱効果が高いので、冬でも温かいのはもちろん、エアコンで冷やした空気が逃げないので夏でも快適に過ごせます。欧米ではポピュラーなものです。もう150年以上の伝統があります。
―――なぜ欧米では、このような空間が定着したのでしょうか?

AY: いつも緑に囲まれていたいという、ガーデン好き英国人のおかげでしょう。そもそもは庭の温室だったんです。南の国の植民地から持ちかえった珍しい果物などの食物を越冬させ、なんとか育てて食べてみたい!その一心で、ヨーロッパの人々が考え出したもの。木造の小屋に人工的な覆いをつける、という発想は、1600年代にイタリアのメディチ家がシトラスレモンを育てるために作ったのが始まりですが、現在のコンサバトリーのようにガラスで建物を作る、いわゆるガラスハウスの考え方は産業革命時代のイギリスで始まりました。
―――やはり、最初は植物のためのものだったんですね。

AY: そうです。コンサバトリーは、「コンサーブ(conserve)」、つまり「保護する」からきている言葉です。南方より持ちかえった植物を、越冬、保護するための建物だったからでしょう。質のいいガラスを大量に作ることが可能になる18世紀初頭までは、栽培用にガラスを多く取り入れた建物は「オランジェリー(orangery)」と呼んでいました。 これは、中でオレンジやレモンを栽培していたからです。最初にコンサバトリーという名がついたガラスハウスは、マルメゾン庭園のガラスの館。1805年に、あのナポレオンが、バラ好きの妻、ジョセフィーヌのために建てたものです。
―――そして貴族の庭に、コンサバトリーが広まっていったんですね。

AY: 用途もだんだん進化していって、そこでお茶を飲んだり、食事をしたりするようになったんで
す。1900年頃になると、都市に労働者階級が増え、小さな庭付きの家をもつようになり、庶民レベルにまでコンサバトリーが知られるようになりました。とはいえ、現在のレベルにまで身近になったのは戦後からですが。
―――山田さんは英国最大のコンサバトリーメーカーから輸入していらっしゃいますが、現在の英国ではかなり一般的なものになっているんですか?

AY: そうですね。ヨーロッパ全体でみると年間15万棟売れています。近い将来20万棟に届くでしょ
う。特に英国では、年々増加傾向にあるんです。
―――なぜそんなに売れているのでしょう。
AY: イギリス人は古い建物に手を加えながら住んでいます。家具も古いもののほうが好まれますよね。そこに自分たちの代のリフォームとして、コンサバトリーが注目されているそうなんです。


使い方自由自在のガーデンリビング

―――コンサバトリーが150年前からあった国とはいえ、日本でのコンサバトリー人気とは背景がずいぶん違いますね。日本に紹介するにあたって、そういう伝統や風土の違いをどのようにお考えでしたか?
AY: 私が日本に紹介した当時は、住宅がどんどん洋風化されることの延長で、コンサバトリーの需要もあると思ったんです。しかし、日本市場での試行錯誤のなかで、日本はもともとコンサバトリー的な空間をもった文化であることに気がつきました。それが「縁側」や「土間」です。
―――屋外と室内の中間という意味ですね。

AY: 住宅が洋風化したことで、インテリアとエクステリアが完全に分かれてしまったんですが、もともと日本の住宅には、縁側のような、四季の変化を直接感じる空間があったんです。そこでお茶を飲んだり、読書をしたり、あるいは昼寝をしたり。半屋外のスペースで多目的に使われていました。これは現在のコンサバトリーの使い方とほぼ同じです。日本人は暮らしの中にそういった空間を求める土台があるんじゃないでしょうか?私が「伝統的な縁側などの空間の生まれ変わり」としてコンサバトリーを提案すると、イメージしやすくなったとよく言われます。ちょうどガーデニングの流行・定着もあって、植物と触れ合える空間としても前向きに評価されるようになりました。
―――植物と楽しむ空間としての歴史がない日本でも、温室のような使われ方が多いのでしょうか?
AY: 面白いことに「半屋外」空間を、屋内の延長と考えるか、屋外の延長と考えるかで使い方が分かれます。屋外の延長と考えている人は、そこで植物やペットと過ごそうとします。屋内の延長と考えている人は、庭を眺めながら食事をしたり、客を呼んだりするために家具を置いていきます。一番象徴的なのは床ですね。土足か否かで、その人がコンサバトリーで何をしたいのかが見えてくるんですよ。
―――なるほど。逆にそれだけ何にでも対応できる、多目的スペースなわけですね。
AY: さんさんと日が降り注ぐガラス張りの開放感、目の前に広がる緑、というシチュエーションは同じですから、どちらにしても「植物に囲まれた癒しの空間=ガーデンリビング」的な使い方と言えるのですが、その向き合い方にその人の趣味や生活スタイルが出ます。また、独特の非日常的は雰囲気を利用して、カフェなどの店舗にされる方も全体の3割程度いらっしゃいます。

自然と一体化できる多目的なゆとり空間

―――今後、日本国内でコンサバトリーは 広まっていくでしょうか?
AY: 環境面はもちろん、生活の質という点からも、今あるものを大事にすることが 見直されていますね。そうなると、住宅はリフォームが主体になってくるでしょうから、やはりヨーロッパのようにコンサバトリーに注目が集まると思います。ただ、都市部は庭の広さも限られているので、縁側の延長としての機能が十分に果たせないかもしれません。コンサバトリーのサイズ自体は3畳ほどからありますが、都市部は消防法などの規定も厳しいので、増築物にかなりの制限があるのです。その代わり、玄関に用いる使い方が向いていると思います。わたしは洋風「土間」と言っていますが、ガーデニングの拠点にもなるし、ちょっとしたお茶飲みスペースでもいいんです。
―――使い方は住む人の自由になるということですね。
AY: どう使うにしろ、コンサバトリーのような自然と共存できる空間が家にあるだけで、暮らしにゆとりが出てくると思います。雨や雪が天井にあたる様子を、ガラスの内側から眺められるだけでも楽しいと思いませんか。流れる雲や輝く星もぐっと身近に感じられますよ。自然や人との触れ合いに価値を見いだせる人が増えていますから、ゆとり空間を暮らしに取り入れる人は、確実に増えていくと思います。