2010年4月号

曖昧のテイスト (その8)
デジタルの海だからこそ浮上するアナログ的感性

冬季オリンピックのカーリングに見る英国の曖昧ティストを愉しむ
500年前にスコットランドで発祥した氷上のチェスとも言われているカーリングは囲碁とオセロとビリヤードとゴルフとペタンクを合わせた様なスポーツと思っている。私は12年前の長野オリンピックで始めて競技種目となりその面白さの虜となって、以来TV放送があると興味深く見ていた。(歴史的には囲碁は中国で一番古く、その次にゴルフ、ビリヤード、カーリングと英国で発達、オセロは戦後日本人によるゲームだが原型は19世紀の英国にある、ペタンクはフランス20世紀初頭)その魅力は10回の表裏の戦いが氷の状況と時間経過と共に微妙にずれて来る事を判断しながら、相手のストーンの裏側に回ったり弾き飛ばしたりし、より中心に近いストーンを多くしてゆく、点を取ったチームは次回が先攻になるため、相手に最小1点を取らせて次回に2点以上得点をするという基本的な戦い方があって、さながら「肉を切らせて骨を絶つ」のと言った感がある。
スピードは遅いがそのストーンの軌跡を追いながらの応援は手に汗握る興奮を憶える。
また、ゴルフと同じように自然の影響を多く受けながらそれを乗り越える技術と戦略で闘う面白さだ。寒い冬に2時間以上のゲームを楽しむことができ、かつ肉体以上に頭脳ゲームでキャリアがものを言う稀有なスポーツであろう。
英国は知の壷、色々なスポーツのルーツがある。自分たちでルールを作りまた、ルールは時代に即して更新し面白い世界を創る。カーリングに学ぶ仕事の流儀
・4人一組のチームがそれぞれの分担をし、スキップ(リーダー)の指示に従いストーンを投げる(チームで仕事をする)
・ストーンにへばり付いているクルーと氷の表面をスイープするかしないかを声を掛け合いながら判断する、(現場とコミュニケーションを取合う)
・状況の変化や運によって、AプランBプランを考えてから投げる(代替案や対応策を事前に考えておく)
・10回の攻防を最初からイメージし最後に逆転できる石の配置を考える(仕事の着地点を考えておく)
・最後のストーンを投げやすい状況を作る、最後のストーンは司令塔のスキップが投げる(良くも悪くもリーダーに花道を作る)

まさに我々が日頃直面している世界が氷上の2時間に集約されていると言える。
1回一人2個ずつ投げて8投目の最後のストーンを投げることが勝利に繋がる、点を取った次の回は先投げのルールためにわざと1点を取らせて次回に2点以上取る状況を作る。
10回の攻防のうちの8エンド10エンドのラストストーンを握るために相手に1点を取らせる
回が進む内に微妙に氷の状況が変わってゆく中で相手のストーンを利用しながら自分のストーンを有利においてゆくが運が大きくかかわってくる。状況の変化に対応するためあらかじめ上手く行った場合のAプラン、いかなかった場合のBプランを想定しながら投げる。デジタルではないアナログの極致のゲームと言っても過言ではない。

アナログからデジタルへと進化?したモノに車がある。アクセルを1回踏んでクラッチを離しながらイグニッションスイッチをいれ同時にアクセルを半分踏みながらエンジンをかける、かかった後もアクセルを踏んだり離したりしてエンジン音の様子で今日の車の機嫌が分かる、といった感覚は今やクラシックカーでも持たない限りあの喜びは戻ってこない。

曖昧ティストを愉しむ感性-トヨタ車のリコールがアメリカから起こった話

何故アメリカであんなに話題にされているのにヨーロッパでは問題にされていないのか?政治的な背景が或る事を差し置いても、私にはヨーロッパ人のアナログ的曖昧ティストがあると思う。この問題に対する英国BBC放送を連日注意して見ていた。英国BBC放送でのトヨタ社を使用しているタクシー会社インタビューではドライバーは特に問題視することは無いと、車好きの彼らは車の特性や個性としてブレーキの感覚を捉えていて、はっきりと問題にする様な事ではないと答えていた。要は「くせ」は個性につながり「くせ」を愉しむ感性が薄れてしまった。
安全に関することなので軽率には言えないが、オートマチック化が進むアメリカ文化か、個性を愉しむヨーロッパ文化かの違いとも感じられる。近代化のルーツといえる英国のものづくりの感性はデジタル化された現代においてもアナログ的感性を持ち続けていて、結局人間が「愉しむ」という原点を忘れてはいない。

今回のバンクーバーオリンピックでの女子カーリングの決勝は奇しくも双方とも43歳の司令塔を要するスウェーデンとカナダの対決となり、歴史に残る攻防を繰り広げた。 ご本家英国チームであるが、今年の司令塔は若干19歳のミュアヘッドが40代のキャリアがあるメンバーを従えて臨んだ。残念ながら日本より悪い成績に終わったが、このようなチーム編成にも英国の懐の深さと常に世界を見据えての戦略を感じている。